特別セミナー「ジャズを語る」第1回 『雑食音楽=Jazz』佐藤 允彦 2016年1月17日 岡崎市図書館交流プラザ  りぶら内田修ジャズコレクション

内田修ジャズコレクション展示室で開講する特別セミナー「ジャズを語る」シリーズ。第1回目のタイトルは「雑食音楽=Jazz」。ピアニスト佐藤允彦氏による講演です。他分野の音楽と遭遇しそのエッセンスを取り込んで新しい表現を獲得していく過程の中でJazzという音楽が多様な方式、多彩な表現を包含し、変化し続けてきた歴史をたどります。
こちらのページでは当日撮影した映像でセミナーの模様をご覧いただくとともに、当日配布したレジュメやお掛けした楽曲のリストなどもあわせてご紹介いたします。

PROFILE講師紹介

佐藤 允彦 ピアニスト

1941年東京生まれ。慶応義塾大学卒業後、米国バークリー音楽院に留学、作・編曲を学ぶ。帰国後、初のリーダー・アルバム『パラジウム』でスイングジャーナル誌「日本ジャズ賞」受賞。その後も、数々のアルバムを制作し、国際的にも高い評価を得ている。1997年には自己のプロデュース・レーベル〈BAJ Records〉を創設。1993年より「ジャンル、技量にかかわらず、誰でも参加できる即興演奏」を目指すワークショップ【Randooga】を開始、フリー・インプロヴィゼイションへの簡潔なアプローチ法を提唱している。2009年~2011年、東京藝術大学に【Non-idiomaticImprovisation】の講座を開設。
長年の親交とジャズにとどまらない音楽への造詣の深さから内田修の信頼も厚く、氏自身から依頼されて本コレクションの監修を行っている。


SEMINARセミナー紹介動画

当日撮影した映像でセミナーの模様をご覧いただけます。
トータルで一時間半の講義を、区切りのよいところで10の動画に分割して掲載しました。



01. ジャズとは?

ジャズという音楽が成立して100年。その歴史はものすごく多様なスタイル、多彩な表現を包括しているもので、「これがジャズだ」という誰もが納得する<ジャズ全体>の定義というのは存在していません。
ただジャズであるために欠かせせないもの、それは「インプロヴィゼイション」です。

02. ジャズのスタイルの変化について

ジャズはその時々に出会ったさまざまな音楽を取り込んできました。そういう意味でジャズは雑食性だと言えます。
なぜそのような柔軟性を持っているのか?それはそもそもジャズという音楽が、奴隷としてアメリカに渡ってきた黒人の民族的なリズムと教会音楽に代表される西洋音楽が知らず知らず合わさって出来上がったものだからかもしれません。

03. アフリカ発祥のポリリズムについて

ここでは「黒人の民族的なリズム」の部分をすこし掘り下げます。
たとえばガーナやトーゴなどアフリカの中央部に住む人達の歌を聴いてみると、いくつかの打楽器や歌唱によって異なる拍子が同時に用いられている、いわゆるポリリズムで構成されていて、これはジャズでいうところの「スゥイングしている」リズムの原型と言えるでしょう。

04. ポリリズム 事例1:ウォータードラミング

ポリリズムの事例をもう少し見ていきましょう。
中央アフリカの熱帯雨林に住むバカ・ピグミーの女性たちによるリクインディ、ウォータードラミングを聴いてみてください。
川や湖などで、水面を叩く「パシャパシャ」という音と水中深く叩く「ドボン」という音を組み合わせた演奏です。

05. ポリリズム 事例2:ピグミーの音楽

同じくバカ・ピグミーによる音楽を聴いてみましょう。
裏声と地声を使った合唱に続いて、木の葉や枝、蔓などで作ったフォレストハープの演奏、そしてまたウォータードラミングへと続いていきます。

06. 五音音階

アフリカのみならず世界的に見て、多くの民族音楽は五音音階で形作られているものです。
それによって、はじまった演奏に後から後からと勝手にさまざまな歌唱や演奏やリズムが加わってきても調和が崩れることなく、ポリフォニックな音楽が自然に生じていくことができるのです。
ジャズでいう「セッション」の礎が彼らの中にはもともと備わっていた、と言うことができるでしょう。

07. アフリカのリズム

アフリカ音楽は奴隷貿易によって世界に拡散します。
奴隷海岸と言われたベニン湾から米国南部に労働力として送り込まれた奴隷達は、中継地点であるカリブ諸島でラテン音楽と遭遇します。
ラテン音楽にある様々なリズムは高音部で打たれる5音パターンと低音部のベースドラムのパターンとの組み合わせで区別されます。
このことは、源流であるアフリカ音楽の高音のベルと低音の太鼓のポリリズムから派生したものと考えて良いでしょう。

08. カリブ海域諸島からの音楽との遭遇

ベネズエラ北方のアンティル諸島にトリニダード・トバゴという島があります。ここで生まれた音楽がカリプソです。
ラテン音楽にある様々な様式、ルンバ、マンボ、サルサ、スカ、レゲェなどは、主としてリズムによって区分けされるのですが、高音部で打たれるclave(クラーベ)の5音パターンが識別の鍵になります。

09. clave (クラーべ)の5音パターン

ここでは、実際にピアノを使ってリズムパターンを比べていきます。
clave(クラーベ)は大別して2−3(two-three)、3−2(three-two)の2つのリズムに分かれ、さらに洗練されたパターンへと進化しました。
これによりラテン音楽やジャズのリズムは、源となる生命力あふれるアフリカのビートから、都会のダンス音楽として踊りやすいものへと洗練されていきます。

10. ジャズの雑食性  様々な音楽との遭遇

ジャズは様々な音楽と出会い、それを飲み込んで同化してきました。
ブラジル音楽(ショーロ)との遭遇がボサ・ノバを誕生させましたし、アラブ音階やリズムを取り入れて名曲「チュニジアの夜」や「キャラバン」が生まれました。
また20世紀前半にアメリカへ渡ってきた東欧系の人々やユダヤ人など、いわゆる「新移民」のもたらした音楽的影響も見逃せません。
これからもジャズは何か未知なものと遭遇し、新たなエネルギーを得て変化していくでしょう。




SONG INTRODUCTIONセミナーで紹介した曲目

セミナーの中でご紹介した曲目リストです。
著作権に配慮して1部の楽曲については動画中ではカットされておりますので、
ご興味がある方は下記情報をご参照ください。



No. Song (Artist) Description
♪01 EWE Agbadza dance 西アフリカ、ガーナ共和国ボルタ州のエウェ人の踊り
♪02 Mme Lucia AFOLABI 西アフリカ、トーゴ共和国のミュージシャングループ「Mme Lucia AFOLABI」による演奏。
♪03 Dzigbordi dance 西アフリカ、トーゴ共和国のミュージシャングループ「Grupe Déké Kpokpo lé Yésumé」による演奏。
♪04 Liquindi Baka women 中央アフリカの熱帯雨林に住むバカ・ピグミーの女性たちによるウォータードラミング(川面を叩く演奏)。
♪05 Baka in the forest 中央アフリカ、カメルーン共和国のバカ・ピグミーによる演奏。
♪06 Lyimbi playing the leta 中央アフリカ共和国のアカ・ピグミーによるポリフォニー。
♪07 St. Thomas(Sonny Rollins) カリブ海のセント・トーマス島出身の両親を持つソニー・ロリンズによる、カリプソの影響を強く受けた楽曲。アルバム“Saxophone Colossus”(1956年発売)に収録。
♪08 Old Time Cat-O’-Nine (Lord Invader) トリニダード・トバゴ生まれの音楽家、ロード・インベーダーによる楽曲。アルバム“Calypso Travels”(1959年発売)に収録。
♪09 Wave(Stan Getz) ジャズ界におけるボサノヴァの第一人者、スタン・ゲッツによる1970年コペンハーゲンでのライブ演奏。
♪10 Altamiro Carrilho e Carlos Poyares(Pixinguinha) MPB(Música Popular Brasileira)の代表的作曲家Pixinguinhaの楽曲。アルバム“Pixinguinha De Novo”(1975年発売)に収録。
♪11 Blue Rondo à la Turk(Dave Brubeck) ウェストコースト・ジャズの代表的なピアニスト、デイヴ・ブルーベックによる楽曲。アルバム“Time Out”(1959年発売)に収録。
♪12 Çir Çıngırdak(Izmirli Taylan) イスタンブールを中心に活躍するトルコのミュージシャン、イズミル・タイランによる楽曲。アルバム“Çıngırdakt”(2008年発売)に収録。
♪13 Russian Lullaby(John Coltrane) ジョン・コルトレーンが超絶技巧を尽くした「ロシアの子守唄」。初期の傑作アルバム“Soultrane”(1958年発売)に収録。
♪14 Brother, Can You Spare a Dime?(Jay Gorny) ブロードウェイミュージカル"New Americana"(1932年初演)のために書かれた、ロシア(現ポーランド)のビャウィストク出身の作曲家ジェイ・ゴーニーによる楽曲。
大恐慌のanthem(頌歌)と言われる。



DOCUMENTセミナー資料について

当日会場で配布したレジュメや図版をこちらからダウンロードいただけます(PDF形式)。